公開日 2022年10月08日
こんにちは
不動産における 第三者のための契約とは?
(新)中間省略登記とは? 基本を簡単に解説します
不動産売買の話で出てくる「三為」(さんため)や「(新)中間省略登記」とはどういう意味でしょうか。
三為とは、かつての「中間省略登記」が禁止されたためこれと同様の結果を生じさせるために編み出された手法の一つで、「第三者のためにする契約」を用いるものをいいます。
この「第三者のため(為)の契約」が三為の語源です。
中間省略登記と同様の結果を生じさせるための方法は三為のほかにもあり、併せて「新中間省略登記」などといわれます(ただし、後に説明するように「新中間省略登記」という呼び方は適切ではありません)。
今回は、「三為」と「(新)中間省略登記」について、そもそも何のために行われるのか、どういう手法なのかなど基本的な部分を簡単に解説します。
中間省略登記の目的
そもそも、中間省略登記は何のために行われるのでしょうか。
中間省略登記とは
中間省略登記とは、物件をA→B→Cと順次売買する際に、登記をAからCに直接移転させることをいいます。
このとき、契約の流れに従いA→B、B→Cと登記を移転させると登録免許税が2回分かかりますし、またBには不動産取得税も課させれます。
しかし、Bが、所有権を取得する目的ではなく最初から転売目的で購入し、AB間の売買とBC間の売買を同時に行うような場合では、上記の費用を抑えたくもなります。
そこで、AからCへと登記を移転できる方が都合がよいわけです。
典型的な場面
ちなみに、不動産業界に縁のない方からすると、転売目的で不動産を購入することなんてよくあるのか?とお思いの方もいるかもしれません。
上記のような取引が行われるのは、例えば次のような状況です。
あなたのもとに、ある土地を1億円で売りたいという人と、その土地を1億2000万円で買いたいという人が、奇跡的に同時に現れたとします。
あなたならどうしますか?
2人を紹介して1億1000万円で取引を成立させれば、あなたは2人から感謝されるでしょう。
また、仮にあなたが仲介業者ならどうしますか?
2人と媒介契約を結んで(両手で)1億2000万円で取引を成立させれば、あなたは732万円(プラス消費税)の報酬を得ることができます。
しかし、もっと良い方法があります。
あなたがその土地を1億円で買って1億2000万円で売ればよいのです。差額2000万円があなたの利益になります。
※もちろん現実にはこんなうまい話はなく、普通は「売りたい人」か「買いたい人」のどちらかしかおらず(両方いないことも…)、より高く(安く)買ってくれる人(売ってくれる人)を探すのに苦労するわけですが。
いずれにせよ、中間省略登記は、まさにこのような場面で使われます。
かつての中間省略登記
少し横道にそれましたが、2004年に不動産登記法が改正(施行は2005年)される前は、売買契約がA→B、B→Cの2つであったとしても、A→Cへ登記を直接移転することができました。
法律上は所有権がA→B→Cと移転しているので本来は2つの登記が必要なのですが、登記申請書類の関係で、中間者であるBを省略してA→Cと登記を移転することができたのです。
しかし、上記改正により(詳細は割愛しますが、法律上の権利変動を登記簿に正確に反映させるために、申請の添付書類の中身が変わりました)、A→Cと直接登記を移転させることができなくなりました。
これにより、売買契約がA→B、B→Cの2つある場合には、登記も2回行わなければならなくなりました。
新中間省略登記
そこで生まれたのが、三為などの「新中間省略登記」と呼ばれる手法です。
大きく、(1)第三者のための契約を用いる手法と、(2)契約上の地位の譲渡を用いる手法に分かれます。
(1)はさらに、①第2契約を他人物売買契約とする手法と、②第2契約を無名契約(指定を受ける権利の設定契約)とする手法に分かれます。
これらの手法は、所有権を、売主(A)から買主(C)に直接移転させる内容になっています。契約上、Bは一度も所有権を取得することがありません。
そのために、不動産登記法の改正後もA→Cに登記を直接移転することができるのです。
上記のうち、一般的に「三為」として行われているのは(1)①の手法です。以下、詳しく解説します。
(なお、(1)②や(2)の手法は通常は使われませんので、今回は説明を割愛します。)
「三為」スキームの概略
典型的なパターンは、この図のように第1売買が「第三者のためにする契約」、第2売買が「他人物売買」となる形です。
それぞれの契約の内容は次のとおりです。
- 第1売買:BがAに代金を支払うが、所有権はBの指定する者に直接移転する。
- 第2売買:CがBに代金を支払い、Bは、A所有の不動産をCに売却する。
つまり、お金はC→B→Aと流れるものの、所有権はA→Cに直接移転する、ということです。
どういうことか。詳しく見ていきます。
「第三者のためにする契約」とは
「三為」の語源にもなっている、第1売買の「第三者のためにする契約」は、民法537条に定められています。
通常、契約において物・権利・お金などを受け取るのは当事者ですが、特約で、これを当事者以外の第三者に受け取らせることができます(第1項)。
そして、その第三者は、債務者に対し利益を受ける意思表示(「受益の意思表示」といいます)をすることにより、を取得します(第3項)。
売買契約でいえば、通常は、売主が代金を受け取り買主が目的物の所有権を取得しますが、特約によって、売主が代金を受け取り第三者が所有権を取得する、とすることができます。
民法第537条(第三者のためにする契約)
1 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
3 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
通常、第1売買の契約書には、「売主(前記の例ではA)は、買主(前記の例ではB)が代金を支払うのを条件として、買主が指定する第三者に直接所有権を移転させる」という旨の特約が入っています。
そのうえで、Bが指定した第三者(C)は、受益の意思表示をAに対して行うことで、所有権を取得することになります。
「他人物売買」とは
次に、第2売買の「他人物売買」とは、その名のとおり他人の所有物を売買することです(民法561条)。
他人の物を勝手に売却するような契約が許されるのかと、私もこの条文を初めて読んだ時には驚きましたが、有効な契約です。
後で自分が所有者から目的物を譲り受ければ問題ありません。
(もし所有者から譲り受けることができなければ自分が債務不履行となるだけで、所有者の知らないうちに所有権が移転するわけではありません。決して横領ではななく、違法な契約ではありません。)
民法第561条(他人の権利の売買における売主の義務)
他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
前記の例では、第2売買(B→Cの売買)は、Bが、Aの所有する不動産をCに売却するという内容の契約になります。
通常、第2売買の契約書には、「売主(ここではB)は、買主(ここではC)に対し、現在の所有者(A)から買主に直接所有権を移転させることにより、義務を履行する」「買主が代金を支払い、かつ現在の所有者に対して受益の意思表示をした時に、買主は所有権を取得する」という旨の特約が入っています。
このようにして、第1売買・第2売買を組み合わせれば、CがBに代金を支払う(かつBがAに代金を支払う)のと同時に所有権がAからCに直接移転する、ということが実現できるのです。
そのため、当然ながら登記もA→Cに直接移転することができるわけです(なので、単純に法律上の権利変動の過程どおりに登記をするわけですから、「中間省略」という呼び方は適切ではないように思います)。
他人物売買に関する宅建業法上の規制
少し横道にそれますが、宅建業法では、宅建業者が宅建業者以外の者に対して他人物売買を行うことが原則として禁じられています(宅建業法33条の2)。
もっとも、2007年の宅建業法施行規則の改正により、現在の所有者(前記の例ではA)との間で、前記の第1売買のような契約を締結している場合には、例外として他人物売買が禁止されないこととなりました(宅建業法施行規則15条の6第4号の新設)。
つまり、宅建業者が中間者となって一般個人などに売る場合、遅くとも第2売買の契約締結時までに、現在の所有者との間で第1売買の契約を締結しておく必要があります。
なお、「三為業者」という場合には、中間者として入っている宅建業者のことを指す場合が多いようです。
まとめ
以上のように、三為契約は、不動産登記法の改正により中間省略登記ができなくなったものの、複雑な契約を組み合わせてAからCへの登記をできるようにするために考えられたものです。
こう聞くと、法の規制をかいくぐるために編み出されたグレーな手法のように思えるかもしれません。
しかし、法律の規定上全く問題がなく、またこの手法は国土交通省や法務省から通達も出されています。
むしろ、前記の2007年の宅建業法施行規則の改正(宅建業法施行規則15条の6第4号の新設)は、宅建業者が三為契約をできるようするために行われたものです。