公開日 2024年03月30日
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背信的悪意者とは?
背信的悪意者論の位置づけ、背信的悪意の認定の方法、背信的悪意者と転得者に関する論点等について解説します。
背信的悪意者とは
民法177条によれば、不動産の物権変動は、登記なくして第三者に対抗できません。
そして、同条に言う第三者とは、「当事者及びその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者」を指します。
つまり、民法177条は、実体的に見れば、かかる第三者に対しては登記なくして物権変動を主張することができませんよ、と定めていることになります。
もっとも、判例上、物権変動につき悪意であって、かつ背信性を有する者(これを背信的悪意者といいます)は、この第三者には該当しないとされています。
当該判例法理に照らせば、物権変動を主張する相手方が背信的悪意者の場合、当該相手方は民法177条が規定する第三者ではないため、「登記なくして対抗できない」というルールが妥当しないことになります。
背信的悪意者論の位置づけ
背信的悪意者論につき、訴訟法上の位置づけを見ておきましょう。
請求と抗弁
たとえば、Cさんから不動産を購入したAさんが、同じく不動産を購入したBさんに対して、裁判で権利取得を主張したとします。
実体的にみれば、Aさんは、Bさんに優先している登記を具備しておかなければ、権利取得を対抗できませんが、訴訟的に見れば、これは抗弁に回ります。
つまり、Aさんが権利取得を主張したとしても、Bさんが、AさんがBさんに優先している登記を備えていないことが抗弁となり、Aさんの権利主張が排斥される、という形になります。
背信的悪意者論は再抗弁になる。
Bさんに優先している登記登記を備えていない、というBさんの抗弁に対して、背信的悪意者論はAさんが主張すべき再抗弁に位置付けられます。
Aさんの請求に対して、Bさんが、「AはBに優先している登記登記を備えていない」と抗弁するのに対して、さらにAさんから、「いやいやBさんは背信的悪意者だから、登記なくして対抗できるでしょ?」と再抗弁を展開していくことになります。
判例理論
ここで、背信的悪意者論につき、最高裁の表現を確認します。背信的悪意者論につき、先例的な位置づけとなる判例が、昭和43年8月2日判決です。
最高裁昭和43年8月2日判決
同判決は物権変動があった事実を知る者につき、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情がある場合には、背信的悪意者として民法177条の第三者には該当しない、と判断しました。
そして、同判決は、登記を具備していない被上告人(物権変動の主張者 上記立場におけるA)を勝たせています。悪意プラス背信性(信義則違反)の認定の参考になりますので判決が認定している事情を挙げておきます。
(上記判決における事実及び評価の部分)
・「上告人は、村図等について調査して、本件山林が被上告人の永年占有管理していることの明らかな本件係争地域内にあって、被上告人がすでにこれを買い受けているものであることを知っ」っていた。
・その上で、「被上告人が登記を経ていないのを奇貨として、被上告人に対し高値でこれを売りつけて利益を得る目的をもつて、本件山林を買い受けるに至ったものである」
・また、上告人は、右買受後被上告人に対し本件山林を買い取るよう求めたが拒絶され、交渉が不調に終わると、第一審脱退原告にこれを転売し、さらに同原告が本件訴を提起したことを知るや、本件山林を買い戻しその所有権を主張して本件訴訟に参加するに至った。
背信的悪意者として認められる者
上記最高裁判決の後も、最高裁はしばしば背信的悪意者論を用いています。この法理は、判例理論としてもはや確立したともいえます。
そこで、次の議論は、どのような者が背信的悪意者と認められるのか、という点に移っています。
そして、要件事実に照らしてみれば、背信性は評価根拠事実の積み上げによって立証するものです。
そのため、ある者が背信的悪意者に該当するかは、主体の性質・取引の時期、当該不動産の従前の利用方法・目的・手段などの諸要素を総合的に吟味して判断していくことになります。
一応のメルクマールをあげるなら、
まとめとしては次のような類型の者は、背信的悪意者に当たるとの評価を受けやすいと考えられます。
・第三者の権利取得(ないし登記の取得)に欺罔性が認められる場合
・第三者の権利取得につき、社会的地位・責任に照らして非難可能性がある場合
・第三者の権利取得が、当該不動産を高値で売りつける目的・手段の下でなされた場合
・第三者の権利取得が害意による場合