公開日 2024年09月08日
住宅ローンの「変動金利」は今後どうなる?
昨日の続きです 少し掘り下げた解説です
変動金利の今後の動向を調べるため、まずは変動金利がどのように決まっているのかを見てみよう。住宅ローンの変動金利の決まり方はやや複雑だ。
変動金利は主に短期金利市場から資金を調達しているので、短期金利に連動するといわれている。
短期金利の指標となるのは、日銀の政策金利(無担保コール翌日物レート。現在は日銀当座預金の超過準備に対する金利)で、2024年7月には政策金利が上がり、現在は「0.25%程度」となっている。
この政策金利に、銀行のコストや利益を載せたものが「店頭金利」だ。最近はあまり目にすることはないが、住宅ローンの金利は、元々は「店頭金利」が使われていた。各銀行の金利はほぼ横並びという牧歌的な時代だった。
銀行間の競争で低金利を維持してきた
その「店頭金利」から、各銀行が設定した「金利優遇幅」を引いたものが「表面金利(適用金利)」で、実際に適用される金利はこの「表面金利」だ。
「表面金利」=店頭金利-金利優遇幅
「表面金利」は、2008年9月は1.875%だったが、「金利優遇幅」が拡大することで、2024年3月には0.375%まで低下している(大手銀行のケース)
「表面金利」「店頭金利」「金利優遇幅」をそれぞれ分析していこう。
店頭金利は10年以上据え置きが続く
「店頭金利」については、日本銀行の政策金利(短期金利の指標)の影響を受けており、日銀による金融緩和政策によって徐々に下がってきたが、過去15年以上、2.475%(大手銀行の場合)で下げ止まっている。
日銀は景気回復のために政策金利を引き下げてきたが、それだけでは効果が薄いため、資産を買い入れる「量的緩和」「マイナス金利」などの施策を実施してきた。
しかし、世界的な金利上昇や物価上昇を受けて、2024年3月にはマイナス金利が終了。7月にはゼロ金利が解除され、0.25%程度に引き上げたため、今後、変動金利は上昇していく。
短期金利引き上げ予想は2024年
従来は金融緩和政策がもっと続くと見られていたが、2023年以降、日銀が金利引き上げ方向に動き始めたことで、金利引き上げ時期が前倒しになった。
なお、2024年7月にゼロ金利は解除されたが、実質政策金利は、概算すると△2%前後(名目金利0.25%-消費者物価指数2.5%前後)と大幅なマイナスであることから、いまだ緩和状態だといえる。
「変動金利の店頭金利は急速には上昇しない」と考えている借り手は多い。しかしながら、今後は既存の借り手も含めて住宅ローン金利が上昇する。
金利優遇幅は、年々拡大
「金利優遇幅」については、徐々に拡大している。金融自由化の中で多くの金融機関が収益の柱として住宅ローンに注目。顧客獲得に向けて、金利引き下げ競争が広がったのが原因だ。
実際、三井住友銀行の場合、金利優遇幅は2008年9月には1.000%だったが、約15年後の2024年3月は2.000%まで拡大している。
現在、各銀行の変動金利は0.4%前後という非常に低い金利となっているが、その大半は金利優遇によるものだ。
銀行は、自らの利益を削って量の拡大に走ってきたわけだが、こうした競争はいつまで続くのだろうか。従来、金融機関は法人向けの融資などがなかなか伸びないため、住宅ローン貸し出しに力を入れていた。
しかし、みずほ銀行のように住宅ローンを積極的には取らない方針に切り替えた銀行も出てており、徐々に潮目は変わりつつある。
早期に、金利優遇幅を縮小するシナリオも
これまで銀行が住宅ローン融資に注力していた理由には、低金利による運用難があったと考える。もし、長期金利の上昇が始まれば、銀行はポートフォリオの構成を変更してくる可能性がある。
以前は運用先の一角を担っていた国債は、金利がほぼ0%となったため残高を減らし、デフォルト率が低く、残高確保が比較的容易な住宅ローンにシフトしてきたと思われる。
しかし、長期金利をコントロールするイールドカーブ・コントロール政策(YCC)が2024年3月に終了。7月には国債買い入れの減額が決定したため、今後は、長期国債金利の上昇も考えられる。
金利上昇で、国債の収益性が変動金利を上回ったらどうなるだろうか。デフォルト率はゼロ、取引残高の確保が簡単で、取引コストもきわめて廉価な国債にシフトする可能性が高くなるだろう。
国債の残高を一挙に増やすとは考えられないが、一定の残高が積みあがれば、変動金利を引き下げて残高を積み上げる必要がなくなるので、変動金利の表面金利は上昇するのではないかと考える。
つまり、長期金利が上昇すると、たとえ短期金利が上昇しなくても、金利優遇幅を縮小して、変動金利の表面金利は上昇するかもしれない。