公開日 2025年06月23日
こんにちは
法人の登記を書き換えて「勝手に物件売却」、防ぎようがない「乗っ取り型」地面師の犯行とは
司法書士も「見抜けない」、14億円だまし取られた大阪の不動産詐欺
地面師を見抜くための「怪しい」ポイント
法人乗っ取りのケースは本人確認で見破るのが難しいとはいえ、司法書士の視点で売主に対して怪しさを感じ取れるポイントはないのだろうか。
たとえば今回の報道内容を見ると、以下のポイントは怪しさを感じ得る
・直近で代表になった人物が不動産を売却しようとしている
・共同代表で揉めているという話があった
・現金で支払うことになっていた
・大きな取引なのに売主の会社に一度も行っていなかった
・権利書がなかった
「直前の代表者交代はやはり怪しいですし、共同代表者間で揉めているのなら、そもそも会社として売却の合意が取れているのかが怪しくなります。こういう場合は、もう一方の代表者の意見も確認するようにした方が良いですね」
さらに、今回のように十数億という大金を「現金」で支払う条件になっている場合も要注意だという。
会社なら法人名義の口座があるはずだが、法人名義の口座は個人名義より作るのが難しいため、現金一括を要求している場合は怪しさを感じる
これらの条件に当てはまると全て怪しいわけではないが、地面師に狙われやすい特徴がある不動産の場合は、特に慎重になった方が良い
まず狙われやすいのは価格が高額なもの。賃貸住宅や更地(所有者が居住しておらず詐欺が発覚しづらい)、抵当権がついていない不動産(抹消登記の手間がかからない)も地面師に好まれやすいという。
こうしたケースは司法書士側でも警戒する傾向があるといい、不動産取得の経緯など所有者しか知り得ない情報について尋ねながら、慎重に本人確認を進めるそうだ。
ただし、「金額が大きい取引現場はプレッシャーがあり、司法書士側もあまり詰めすぎないように神経質になってしまうのが難しいところです」とも言う。
「尋問のようになって売主の機嫌を損ねると、契約破棄に繋がってしまう可能性もありますから。不動産オーナーの方は、その辺りのバランスを取りながら上手く情報を引き出してくれる司法書士のパートナーを見つけられると心強いかと思います」
不動産オーナーはどう気をつける?
法人を乗っ取られた不動産所有者と、偽の売主に十数億もの金額を支払った買主。不動産オーナーはどちらの被害者にもなり得るが、こうした被害に遭わないためにできることはあるのだろうか。
まず法人で不動産を所有している場合は、会社の登記情報をチェックすることが大事だ
登記情報はオンラインでも数百円で見ることができるため、「経費だと思って定期的に確認することで、異変があった時すぐに気が付けます」と勧める。
「また自治体によっては、住民票や戸籍の発行時に本人に通知する仕組みもあります。勝手に住民票や戸籍が取得されたらすぐに分かるよう、自分の自治体でそういった仕組みがあるかを調べ、登録しておくことも一手かと思います」
所有者側としては他に、「この物件・土地は売りに出していない」という看板を立てるのも効果的だという。
では、買主側の立場で騙されないためには、どうすれば良いのだろうか。
特に先述の怪しいと言えるポイントがあった場合などに、慎重になることが重要だ
「司法書士でも見抜けないことを買主が見抜くのは難しいかと思いますが、何より『冷静になる』のが大事だと思います。買い急いでいると多少の違和感にも目をつぶってしまいがちですが、特に金額の大きな取引では慎重な姿勢が求められるでしょう」
対策「現実的に難しい」の声も
法人乗っ取りについて、投資家にできる対策は限られているのが現状だ。
今回の物件は、管理不行き届き・無抵当・高齢所有者という状況だった。都市部の物件ということもあり、狙われるべくして狙われた、手口は法人の乗っ取りによるものでしたけど、こうした対象になる物件を作らないということも大事だ
また、法人の乗っ取りを防ぐため、登記を定期的に確認するという対策については「現実的には難しい」との見解も示した。
「実際に売買を行う時や、金融機関から新規で融資を受ける時くらいしか、自分の会社の登記をわざわざ確認することもないですからね。確かに(乗っ取りを)やられていたら気付けないですが、そのためだけに毎月確認するかと言われたら、ちょっと首肯しがたいですよね」
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まとめ:
法人登記の仕組みの抜け穴をついた、「法人乗っ取り」型の詐欺事件。売買現場で見抜くことが非常に困難な手口に、専門家も警鐘を鳴らしている。
現状の制度をすぐに変えることは難しいが、不動産を法人で所有するオーナーや購入検討者はまず自らも被害者になり得ることを認識し、登記情報の確認や取引時の慎重な見極めを行うことが求められるだろう。
法人の登記は変更がしやすいのが現状なので、今後また同じようなことをやられたらどうするのか、というのは頭の痛い問題