成年後見制度改正で不動産取引は何をどう調査すべきか リスクとチャンス

公開日 2026年07月02日

不動産取引は何をどう調査すべきか

以上のようなことから、改正後には「補助人又は特定補助人に、当該不動産取引についてどの権限があるか」を調査することが重要になります。

 

まず確認すべきなのは、成年後見登記の登記事項証明書です。成年後見登記制度は、成年後見人等の権限や任意後見契約の内容を登記し、証明書で確認できる制度です(後見登記等に関する法律)。

ただし、登記事項証明書は誰でも自由に取得できるものではありません。実務上は、売主本人、補助人、特定補助人、親族又は代理人に提出を求めることになります。

次に、家庭裁判所の審判書、代理権目録、同意権の対象行為が分かる資料を確認します。登記事項証明書で補助人の存在が分かっても、それだけで不動産売買を代理できるとは限りません。

補助人に当該不動産の売却について代理権があるか、本人が自ら契約する場合には補助人の同意が必要な行為に含まれていないかを確認する必要があります(民法99条、民法120条1項)。

特定補助人が付されている場合には、これに加えて、本人の契約を取り消し得るのか、解除通知・催告・更新拒絶などの意思表示を誰に送るべきか、保存行為としてどこまで対応できるのかを確認します(民法97条、民法98条の2)。

実務上は、契約締結前に、登記事項証明書、審判書、代理権目録、補助人の同意書等の提出を求め、決済直前にも最新情報を再確認することが望ましいでしょう。

なお、「登記されていないことの証明書」が提出された場合でも、それは成年後見等の登記がないことを示すにとどまり、本人に意思能力があることまで証明するものではありません(民法3条の2、民法98条の2)。

相続不動産にも影響する

今回の改正は、相続不動産にも影響します。相続人の中に判断能力に問題のある人がいる場合、遺産分割協議を有効に進めることができないことがあります。

改正後は、遺産分割など特定の法律行為について、補助人の同意や代理権を利用しやすくなる方向です(民法13条相当の重要財産行為、民法120条1項)。

また、相続人が特定補助人を付する旨の審判を受けた者である場合、相続の承認又は放棄の熟慮期間は、法定代理人が相続開始を知った時から起算する方向で整備されます(民法917条)。

相続不動産を購入する投資家にとっては、相続登記が済んでいるかだけでなく、遺産分割協議が有効に成立しているか、相続人の中に補助制度や特定補助の対象者がいないか、必要な同意や代理権が備わっているかを確認することが重要になります。

賃貸管理では通知・委任・時効に注意

さらに、賃貸管理の現場では、通知の効力にも注意が必要です。

賃料滞納の催告、賃貸借契約の解除、更新拒絶などは、相手方に有効に意思表示が到達することで効力が問題になります(民法97条)。相手方が特定補助人を付する旨の審判を受けた者である場合、本人に通知しただけでは意思表示を対抗できない可能性があります(民法98条の2)。

また、不動産管理や売却活動は、法律上、委任又は準委任として整理されることがあります。受任者が特定補助人を付する旨の審判を受けた場合、委任契約の終了が問題となります(民法653条3号)。代理人自身が特定補助人を付する旨の審判を受けた場合にも、代理権の消滅が問題となります(民法111条1項2号)。

さらに、相手方が特定補助人を付する旨の審判を受けた者で、法定代理人がいない場合には、時効の完成猶予が問題となります(民法158条)。賃料債権、修繕費用請求、損害賠償請求などでは、相手方の能力状態が時効管理に影響する可能性があります。

 

リスクとチャンス

補助制度が柔軟に使えるようになれば、これまで「後見を申し立てると重すぎる」として動かなかった物件が市場に出やすくなる可能性があります。

施設入所費用のために売却が必要な収益物件、相続人の一部に判断能力の問題があるため処分が止まっていた土地、管理が難しくなった高齢オーナーの築古アパートなどです。

ただし、「安く買える物件」ほど法的リスクが高いこともあります。高齢の売主が相場より著しく安い価格で売却しようとしている場合、本当に本人の意思に基づく売却なのか、補助人の同意や代理権が必要ではないのか、親族間で争いがないのかを確認する必要があります。

後から「本人は契約内容を理解していなかった」「補助人の同意が必要だった」「代理権の範囲外だった」といった問題が出れば、契約取消しや紛争に発展する可能性があります(民法3条の2、民法98条の2、民法120条1項)。

なお、この改正法の施行日は、現時点で具体的な日付が確定しているわけではありません。公布日から最長で2年6カ月以内に、政令で定める日に施行される見通しです。

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